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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)6796号 判決 1968年3月05日

原告

井筒弘子

ほか五名

右六名代理人

松田道夫

松田節子

被告

三洋電機貿易株式会社

代理人

樫本信雄

浜本恒哉

被告

三信興産株式会社

被告

芋野重信

右両名代理人

加堂正一

被告

芋野信之助

代理人

山本敏雄

ほか二名

主文

一、被告らは、各自、原告太田しづ子に対し金八九二、四三四円、同太田進、同太田時江、同太田高枝、同井筒弘子、同外川好子に対し各金四六九、九三三円宛および右各金員に対する昭和四二年一月一六日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らのその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用は、これを四分しその一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告らにおいて連帯して、原告太田しづ子に対し金七二〇、〇〇〇円、その余の原告らに対し各三五〇、〇〇〇円宛の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

第一 原告の申立

被告らは、各自、原告太田しづ子に対し金一、五四四、一三九円、同太田進、同太田時江、同太田高枝、同井筒弘子、同外川好子に対し各金七〇三、一六六円宛および右各金員に対する昭和四二年一月一六日(本件訴状送達以後の日)からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え、

との判決ならびに仮執行の宣言。

<中略>

第五 争点に対する判断

一、本件事故発生

原告ら主張のとおり(但し、被告三信興産、同重信との間では争いがなく、被告信之助との間でも事故車の進行速度を除き争いがない)。<証拠略>、

二責任原因

被告らは、いずれも左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告ら相互の関係と事故車の利用状況

右につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 被告信之助は、小口荷物の梱包、運送業を営み(但し、営業免許はない)訴外小原正已を運転手として雇用している者であり、かつ、事故車の所有者であるが、事故車を購入する際、その住居地に法令上要求されている車庫を持つていなかつたことから、道路運送車両法に定める登録や検査を受けるにつき息子である被告重信の了解を得て、同被告を事故車の使用者として届出、更に事故車を購入して間もない昭和四〇年八月ごろから、事故車と運転手小原を被告重信の経営する被告三信興産の仕事に使用、従事させることにしたこと

(2) 被告重信は、被告信之助の三男であり被告三信興産の代表者としてこれを主宰するものであるが、右の如く父である被告信之助が事故車を購入した際その登録上の使用者名義人となり、更に、これをいわば運転手附で自己の経営する被告三信興産において傭車しその事業に使用することとしたこと

(3) 被告三信興産は、梱包、荷役の作業および請負を主たる営業目的とし従業員約八〇名を擁する株式会社であるが、その本店所在地は代表者である被告重信の居宅所在地と同一であり、その業務は専ら被告三洋貿易が取扱う輸出用電機製品の梱包作業とこれに附随する梱包製品の輸送等に限られ、その作業場所も殆んど被告三洋貿易の輸送センターの作業場だけであり、かつ、右作業に使用される梱包材料は被告三洋貿易から支給されていたこと

(4) 被告三洋貿易は、右の如く被告三信興産を専属の業者として東大阪市所在の輸送センターにおける梱包作業を行なわせていたものであり、梱包された製品の輸送については、本来他の運法業者に当らせていたのであるが、梱包作業が被告三信興産の都合で遅れ指定時間までに間に合わなかつたような場合には被告三信興産の責任として同被告に運送させており、それ以外にも被告三洋貿易において取扱う製品の見本の配送を依頼したこともあること

(5) 被告三信興産は、元来、梱包材料の運搬や右の如く梱包作業が遅れた場合の梱包製品の運送に事故車を使用していたのであるが、被告三洋貿易から依頼された見本品の配送等にもこれを使用していたものであり、現に事故当日、訴外小原は午前中は電機製品を倉庫へ輸送し、午後からは、大阪市内、一二ケ所の貿易会社へ電機製品の見本を配送していたものであつて、本件事故はその帰途に発生したこと

(6) 被告三信興産が右配送等に使用している貨物自動車は事故車だけであり、事故車の車体には被告三信興産の社名が表示されていたこと

(7) 訴外小原は、被告信之助方に居住し前記輸送センターへ毎日出勤し、前示の如く梱包材料の運搬、梱包製品の輸送、見本品の配送等の仕事に従事していたが、その通勤にも事故車を利用し事故車を被告信之助方の倉庫に入れて保管していたこと

(8) 右小原に対しては被告信之助が給料を支払つていたが、被告信之助に対しては被告三信興産から傭車料名義で毎月九五、〇〇〇円の対価が支払われていたこと<証拠略>

(二) 被告三信興産の責任

被告三信興産が、事故車および運転者小原を前示梱包材料の運搬、梱包製品の輸送、更には被告三洋貿易から依頼があつた場合の見本品の配送等に使用、従事せしめていたことは前示のとおりであり見本品の配送の如きは、被告三信興産の本来の営業目的とするところでないとしても、被告三洋貿易との前示専属的取引関係から派生する附随的役務としてこれを行なうことを容認していたものというべく、同被告が日頃事故車を自己のための運行の用に供していたことは明らかであるから、特段の事情のない限り、被告三信興産は、自賠法三条の責任を免れないものというべきである。しかるところ、本件において右特段の事情立証はなく、むしろ、本件事故が運転者小原が見本品の配送にいつた帰途に発生したものであることに徴すれば、右事故は日頃被告三信興産が予定していた事故車の利用形態の範囲内で発生したものというべく同被告が運行供用者としての責を免れないことは明らかというべきである。

(三) 被告信之助の責任

被告信之助は、事故車の所有者であり元来その運行を管理、制御すべき立場にあるところ、前示の如くこれを被告三信興産に貸与しているが傭車料名儀で月額九五、〇〇〇円の対価を得て利益を享受しており、他方、事故車の運転者小原に対しては使用者として給料を支払いかつ自己の居宅に居住させ、日頃同人が前示の如く運転手として勤務していることおよび同人が事故車を持帰り通勤等にも使用していることを充分知悉していた筈であるから、使用人たる小原に対する指示、監督を通じて同人が行なう事故車の運転行為を管理、制御しうる立場にありかつこれをなすべきであつたから、被告信之助が事故車の所有者および運転者小原の使用者として自から選択、決定した事故車の前示利用形態の範囲内と認められる運行から生じた事故については、自賠法三条の責任を免れないものと解するのが相当である。

しかるところ、本件事故が運転者小原が前記見本品の配送にいつた帰途に生じたこと前示のとおりであるから、右事故は被告信之助が自から選択、決定した事故車の前示利用形態の範囲内で起きたものというべく、被告信之助としても自賠法三条による運行供用者としての責任を免れないものというべきである。

(4) 被告重信の責任

被告重信と被告信之助が父子であることおよび被告重信が事故車の使用者として登録されていることは前示のとおりであり、少くとも被告重信が道路運送車両法上事故車の使用者として所定の責任を負うべき立場にあつたことは明らかであり、その限りにおいては対社会的に事故車を自己の支配、管理の下に運行せしめることを表明したものとして事故車の運行に関し管理、制御の責任を負うものと解すべきである。蓋し、被告重信を事故車の使用名義人として登録したのは父親である被告信之助自身は法令上求めらている車庫の設備をもたず同被告の名義では登録を受けられないと考えたからのことであり、かつ、無登録車の運行が禁じられていることに徴すれば、事故車が法令上所定の登録、検査を受け、前認定の如き利用形態の下で利用され得るようになつたのも被告重信の名義を使用することによつて初めて可能になつたとも言い得るからである。

そして、被告重信が右の如く自己の使用名で事故車を運行せしめることを許容し、かつ、前示の如き形態での事故車の利用を決したのは、格別、そうすべき社会的、公共的要請があつた訳ではなく、結局、そうすることが自己が主宰する被告三信興産の利益のみならず父親である被告信之助の利益にも合し、かつ、被告重信個人にとつてもその利益にこそなれ何ら不利益を蒙ることはないと判断したからにほかならず、自己の自由意思と責任においてこれ決したものと推認される。

しかも、前示被告三信興産の従業員数および弁論の全趣旨に照らば、被告三信興産は被告重信の主宰するいわゆる個人会社であり同被告自身、自からその業務ないし従業員等を指揮、監督すべき立場にあつたと推認されるところ、このように実際に事故車の運行を管理、制御し得る機会を有しかつこれをなし得る立場にある以上は、自己の使用名義での運行を許容した被告重信個人としても事故車の運行につき管理、制御の責任を負うべきものと解するのが相当である。

そうだとすると、被告重信としては、前認定の如き事故車の利用形態から一般的、客観的に許容されていたと認められる範囲内の運転に対しては運行供用者としての管理、制御の責任を負い、かかる運転から発生した事故に対しては自賠法三条による責任を免れないものと解すべきところ、本件事故は運転者小原が前記見本品の配送を終えたその帰途に発生したものであるから、右事故は前記利用形態から当然予想される範囲内の運転による事故であり、被告重信もまた運行供用者としての責任を免れないというべきである。

(五) 被告三洋貿易の責任

被告三洋貿易が被告三信興産を専属の運送業者としていたものでないことは、同被告主張のとおりであるが、同被告は被告三信興産を専属業者として梱包作業に当らせ、その作業が遅れた場合の梱包製品の輸送を被告三信興産に行なわせていたばかりでなく、時に、自己が取扱う見本品の配送を依頼したりして日頃事故車の利用により便益を得ていたことは否定し得ないところである。

しかるところ、本件事故当日、事故車の運転者小原は午後から被告三洋貿易の見本品を大阪市内の貿易会社に配送する仕事に従事していたものであるが、かかる見本品の配送は元来被告三信興産ないし運転者小原の担当業務ではなかつたところ、事故当日午後の配送先は大阪市内一二ケ所にも及んでいること(甲六号証の二)を考慮すれば、かかる運送は被告三信興産ないし運転者小原が自発的、好意的にいわばことのついでに配送するという便宜的運送の域をこえ、被告三洋貿易と被告三信興産の前記専属関係に由来する一般的支配関係の故に、被告三信興産としてもこれを容認していたものというべく、少くとも、事故当日の午後行なわれていた見本品の配送という具体的運行に関する限り、本来、被告三洋貿易のための運行であつたことは否定し得ないところであり、それが単なる便宜的運送の域をこえるものである以上、被告三洋貿易としてもその運行に関し管理、制御の責任を負うべきものと解するのが相当である。

そして、本件事故が右見本品配送の帰途に発生したものであることは前示のとおりであるから、右事件はなお右被告三洋貿易のためにする運行により生じたものというに妨げなく、そうである以上、同被告もまた本件事故につき自賠法三条の責任を免れない。

三、不可抗力、免責事由の有無

(一) 本件事故発生の状況につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 本件事故現場は、南北にのびる幅員一六メートル、コンクリート舗装の直線道路(以下、南北道路という)とこれより東にのびる幅員八メートルの道路(以下、交差道路という)がほぼ直角に交わる三叉交差点であり、南北道路は中心線により南行車線と北行車線に区分されている。右交差点では交通整理はおこなわれておらず信号機も設置されていない。南北道路の制限速度は時速五〇キロメートルで歩行者の横断は禁止されている。

(2) 右交差点の南方約七四メートルの地点には信号機の設置されている今川交差点があり、事故車の運転者小原は右今川交差点を青信号で通過、南北道路の北行車線、中心線寄りを時速四〇キロメートルで北進していたものであるが、当時、南行車線には対向してきた多数の車両が停滞し前記今川交差点から事故現場交差点の北方にまで連続して停止していた。

(3) 被害者である亡好三は足踏自転車に乗り前記交差道路を西進してきて事故現場交差点の南行車線上の停滞車両の間を通り、南北道路を西へ横断しようとしていたものであり、事故車の運転者小原は、停滞車両の間からでてくる亡好三を前方約一一メートルの地点に認め、直ちに急停車の措置をとりハンドルを左へ切つたが及ばず衝突した。

(4) なお、事故当日は雨天で、当時路面は澪れていた。<証拠略>

(二) ところで、運転者小原は、事故現場附近を始めて通るものでなく過去すでに一〇回位は通つており<証拠略>、現場交差点が交通整理の行なわれておらず信号機の設備もない交差点であることを認識していたか少くともいま少し慎重に留意すれば充分これに気づいていた筈であり、また、前示の如く長距離にわたつて対向車両が停滞している場合、その間を通つて人や自転車の如き軽車両が進出してくることはしばしばみられるところであり、ことに、当時は雨のため路面が澪れ急制動しても直ぐには停止し難い状態にあつたのであるから、右交差点に接近する者としては出来るだけ減速しあるいは左側に寄つて停滞車両との間に間隔をとるなどして停滞車両の間からでてくる人車の有無を早期に発見するよう努めて進行するのが至当の措置というべきである(当時、現場には右措置を妨げるような、また、その措置によつて他の危険性を誘発するような事情があつたとは認められない)。しかるに、運転者小原は、右停滞車両の間から進出してくる人車はないものと速断して前示の如く中心線寄りを時速四〇キロメートルの速度のまま進行していたのであるから、運転者としての注意義務を充分に尽していたものとは断じ難く、本件事故が避け得ないものであつたとも断定し得ない。

よつて、被告らの主張する不可抗力、ないし免責事由の主張はその余の点の判断に及ぶまでもなく採用し得ない。

四、損害の発生

(一) 逸失利益

亡好三は、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

石工、石材加工業棟近方勤務。

<証拠略>

(2) 収入

月額三九、二〇〇円

<証拠略>

(3) 生活費

月額一三、二〇〇円。

事故当時、亡好三と同居していた家族は、原告しづ子、同進、同時江、同高枝の四名であり、その生活費は毎月六〇、〇〇〇円位であり、これは原告高枝以外の者の収入を合わせて維持されていたものと認められるので、前記亡好三の収入額に照らせば、同人の生活費は月額一三、二〇〇円をこえなかつたものと認めるが相当である。<証拠略>

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額、年額にして三一二、〇〇〇円。

(5) 就労可能年数

事故当時の年令 満五二年(大正二年一二月一九日生)

平均余命 30.54年

右平均余命の範囲内で、なお七年間就労可能。

なお、亡好三は、事故時より二年前位から高血圧のため、月に一度位通院して治療を受けていたが、格別の支障なく前記勤務をつづけていたものと認められ、就労不能の状態にあつたとは言い得ない。<証拠略>

(6) 逸失利益

額亡好三の右就労期間中の逸失利益の事故時における現価は金一、八三二、七八一円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による。但し、円未満切捨)。

三一二、〇〇〇円×五、八七四三=一、八三二、七八一円

(7) 権利の承継

原告ら主張のとおり(被告三洋貿易以外の被告らとの間では争いがない)<証拠略>

(二) 葬祭関係費

原告しづ子主張のとおり。<証拠略>

(三) 精神的損害(慰謝料)原告ら各五〇〇、〇〇〇円宛右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 原告らと亡好三の前記身分関係。

(2) 亡好三は、事故当時いまだ満五二才であり、なお、原告ら家族の中心的存在たるべき者であつた。<証拠略>

(4) 弁護士費用

原告しづ子は、その主張の如き債務を負担したものと認められるが、本件事実の内容、審理の経過、前記損害額に照らすと、被告らに対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは金三〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。<証拠略>

五、過失相殺

亡好三にも、本件事故の発生につき左記の如き過失があるしかして、本件事故の態様及び後記の如き事情を総合考慮すれば過失相殺により原告らの前記損害賠償請求の一〇分の一を減ずるのが相当である。

(1) 本件事故現場および事故発生の概況は前示三のとおりであり、右事実に照らせば、亡好三としても、事故現場である南北道路は、歩行者に対する関係とはいえ横断が禁止されている車両の通行の多い道路なのであるから<証拠略>停滞車両の間から南北道路の北行車線へ進出するにあたつては、一旦停止するなどして充分安全を確認すべき注意義務があるものと解され、また、同人が右注意義務を充分尽しておれば本件事故を回避することも可能な状況であつたと推認される。

(2) そうだとすれば、亡好三もまた本件事故の発生につき一半の責を免れないものといわざるを得ないが、前示事故の態様および危険責任、報償責任を基礎とする自動車事故損害賠償責任の理念に照らせば過失相殺の割合は、前示の限度にとどめるのが相当である。

(3) なお、被告三洋貿易は、本来自己の無責を主張するものであるが、もし、その主張が容れられず有責と認められる場合には、特に反対に解すべき積極的な主張のない限り、相被告らの過失相殺の主張を援用し、予備的、仮定的にこれを主張しているものと解するのが相当である。

五、損益相殺

原告ら主張のとおり(被告らは、充当関係については明らかに争わない)。

(証拠 弁論の全趣旨)

六、本訴認容損害額

(一) 原告しづ子

(1) 逸失利益相続分残額四九、八三四円

(2) 葬祭関係費 一二二、六〇〇円

(3) 慰謝料 四五〇、〇〇〇円

(4) 弁護士費用 二七〇、〇〇〇円

計八九二、四三四円

(二) その余の原告ら

(1) 逸失利益相続分残額一九、九三三円

(2) 慰謝料 四五〇、〇〇〇円

計四六九、九三三円

第五 結論

原告らは、各自、原告太田しづ子に対し金八九二、四三四円、同太田進、同太田時江、同太田高枝、同井筒弘子、同外川好子に対し各金四六九、九三三円宛および右各金員に対する昭和四二年一月一六日(本件訴状送達以後の日)からそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行及び同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。(上野茂)

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